Homan由佳の英語で仕事力アップ

文脈から推測する力

Homan由佳の英語で仕事力アップ

仕事で英語を使うのに必要な語彙数

前回のブログ 英文読解力を身につける方法 で、英文読解力を身につけるために「ざっくり読み」「じっくり読み」「ワクワク読み」をバランス良く取り入れることをお勧めしました。こうした読み分けは日本語を読むときにも私たちは無意識に行なっているわけですが、母語の場合と違って、英語で読む場合には「語彙力」という高い壁があります。せっかく面白そうな洋書を「ワクワク」して読みたいと思っても、1つの文章にわからない英単語が何個もあれば話の展開を追う余裕もなく、すぐにギブアップしてしまうことになるでしょう。ですから、英文読解力をつけるには当然、語彙力が必要です。

具体的にどのくらいの語彙数が必要なのでしょうか。文部科学省による学習指導要領では昨年まで「高校卒業までに3,000語程度」でしたが、小学校からの英語教科化に伴って5,000語程度を提示しています。巷では「ビジネスで使う英語は中学英語(1,200語)で十分!」という類の英語啓発本が売れているようですが、文科省が目指す日本人の英語力とは随分ギャップがあるようです。また、一般的に英検1級に必要な語彙数が10,000〜15,000語、大卒のネイティブスピーカーでおよそ25,000〜30,000語くらいと言われているので、ネイティブと同等のfluent readerになるのは並大抵のことではありません。またそれを目指す必要もないと思いますが、仕事で英語を使うとなると(業種にもよりますが)5,000〜10,000語くらいが目指すところというのが私の感覚です。

もう一つの読解ストラテジー「文脈から推測する」

いずれにしても外国語学習者にとって、単語量を増やす努力は必要なのですが、もう一つ重宝する読解ストラテジー (reading strategy) が「文脈から推測する」guessing from the context ことです。わからない単語に遭遇しても文脈からその意味を推測し、文章の一部よりも全体の意味を把握することに注力します。知らない単語が出てくるたびに辞書を引いて思考を中断してしまわないようにして下さいね。文脈から推測する力を養うには、読む文章は少し易しいと感じるくらいが丁度よいのです。このストラテジーは英語教授法でも古典的テクニックなのですが、注意も必要です。「推測する」ということは「想像する」ことでもあるので、とんでもない思い込みをして間違った解釈に走ってしまう可能性があるからです。それを防ぐには、ある程度の語彙力と書き手のロジックを追う読み方ができることが必要になります。「書き手のロジックを追う」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、平たく言うと「書き手は何を言おうとしているのだろう」と考えながら読む行為です。前回のブログで紹介した「ざっくり読み」や「ワクワク読み」では、自分の知識や体験を総動員してトップダウン式に情報処理を行う読み方でその効力を発揮します。

「推測する」ための練習問題

学生が文脈から推測する力を伸ばすために、私はもう何年も副教材としてPearsonから出版されているMore Reading Power (1996) というテキストを使っています。”Making inferences”(推測する)の章にある練習問題の1つをご紹介しましょう。

問題:話している人の職業を当てて下さい。推測するためにヒントになった単語やフレーズを使いながら、なぜその職業と思うのか理由も説明して下さい。

My day starts at four o’clock in the morning. That’s when my feet hit the floor. I’m at work at five-thirty and I finish at two in the afternoon. In between I do a lot of walking. I wear out a lot of shoes each year—maybe four or five pairs. And my poor feet, at the end of the day they’re really hurting. The other problem is the dogs. Sometimes you can make friends with them and they’ll follow you around. But other times, they can be mean. I’ve been bitten a couple of times. I can’t say as I care much for dogs any more. But it’s not all bad, my job. One thing I like is the way you meet a lot of people. You learn all about their private lives, too. It never gets boring.

More Reading Power (1996) より抜粋

ある日の授業に出席した29名の学生の回答の内訳はこちらです。

  1. ペット犬を扱う仕事(犬の調教師、訓練士、犬の散歩代行サービス、ペットショップオーナー、ブリーダー)(9名)
  2. 新聞配達員(4名)
  3. 狩人、ハンター(3名)
  4. 陸上選手・マラソン選手(4名)
  5. 郵便配達員 (2名)、 靴職人(2名)
  6. 車夫、牛乳の配達人、工事の人、アナウンサー、登山家(各1名)
  7. 無回答(2名)

ちなみに、私自身の回答は(2)でした。「仕事始めは午前5時半から午後2時まで。靴はすぐボロボロになってしまう。昔は犬好きだったけれど、追いかけ回されて噛み付かれたこともあるので今は嫌い。仕事はいつも楽しく素晴らしいわけではないけれど、色々な人との出会いがあるので満足している。この仕事に飽きることはない」という文章から新聞配達員を連想し、推測のヒントになった単語に下線を引いて、情景を鮮やかに思い浮かべながら行き着いた回答です。私のイメージは昔の「日本の新聞配達少年」。でもアメリカだったら(靴はボロボロにならないけれど)、新聞受けにきちんと新聞を入れる日本の配達員と違って、自転車に乗りながら玄関先にドサっと放り投げる感じだろう。雨が降っていたり芝生のスプリンクラーが作動していると新聞紙がビショビショになることもあるはず。新聞を放り投げる際に住人と挨拶を交わしたりするのかなぁ、などと思いを巡らせていました。

正解のない問題に取り組む

実は、この問題に正解はありません。教師用の解答例にもAnswers vary. (正答なし)としか書いていません。ですから、職業を回答してその理由を説明できれば○ということになります。例えば、 “dogs” の単語から(1)を推測したとか、 “walking”, “shoes”, “feet” という単語から(4)や(5)を導き出したとか、 “hunting” (“hurting”の読み違いですが)から(3) と認識したとか、ヒントになった文章中の単語を引き合いに出して英語で説明しなければなりません。回答した学生が入学したばかりの1年生であること、また彼らの英語習熟度も考慮すると、文章の前後関係を読み取りながら全体を解釈することはできなかったようで、自分たちが認識できる単語だけをヒントに職業を考えつくので精一杯だった結果が見てとれます。でも、このテキストには難易度の高い問題も含まれていますので、教員はレベルに合わせて出題することができるので授業用にはオススメの教科書です。

この授業で学生に求められるのは正しい職業を言い当てることではなく、その職業を導きだした思考のプロセスを説明することです。回答の裏付けになった証拠(文章内の単語やフレーズ)を示しながら英語でいかに記述(口述)するかが評価のポイントになるわけです。わからない単語があっても文脈からその意味を推察して全体の意味を解釈しようとする読み方です。正解のない問題に取り組むことで「考える力と判断する力と表現する力」を学ぼうという大きな授業のねらいがあるのです。

より「考える力と判断する力と表現する力」が重要に

今、大学はこの「考える力と判断する力と表現する力」を重視する教育方針に向かって足並みを揃えていて、それは2020年度大学入試共通テストでスタートする国語と数学での記述式問題の本格導入にも象徴されています。採点基準が難しいものの、入試で英語記述式問題というのも将来あるかもしれないと思います。

英語の読み書き能力が本当の意味で「日本人の英語コミュニケーション力」の基礎体力なのだと私は本気で考えています。この続きはまた!

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